ALL'S RIGHT WITH THE WORLD
第七話 C-Part
小用を済ませ手を洗っているシンジに目を留め、新たに入ってきた男は「おやっ」という顔をした。その気配を感じたシンジもそちらを見る。
「……碇――シンジ君だね。ＥＶＡＮＧＥＬＩＯＮのパイロットの？」
「ええ」
手を拭きつつ答える。
「ＪＡの開発責任者、時田だ。会えて光栄だよ」
「一応、機密である筈の僕の事を、何故知っているのかは……聞かないでおきましょう」
手を差し出した時田の表情を探りながら、シンジは手を握り返す。シンジの物言いに時田は苦笑した。
「ありがとう。……ところで君は、先程の会場であまり話を聞いていなかったようだが……現役のパイロットとして、ああいう事には興味が無いのかね？」
「漫才はしっかり聞かせて頂きましたよ」
『所詮は子供か』という意識を滲ませ時田が尋ねるが、答えを聞いて顔を引き攣らせる。
「興味は……あります。言いたい事も、あります。ＮＥＲＶにも――貴方達にも」
「ほう……それは是非聞きたいね」
「構いませんが……取敢えず、御用を済ませたら如何です？」
そう言われた時田は辺りを見回し、自分達がいる場所を思い出して納得した。
「おっと……」
先に廊下に出たシンジを追ってトイレを出ようとした時田は、出口で誰かと鉢合わせ小さく声を上げた。
「き、君っ！ そ、それはウチの社員じゃないかね！？」
だが、それが日重共の人間らしきモノを肩に担いだシンジだと判ると、直ぐに大声になる。
「ええ。先程からずっとこちらを窺っていたので……。多分、ＮＥＲＶ辺りの狗だと思うんですが。後で身元を調べてみて下さい」
「ネ、ＮＥＲＶ……だって？」
絶句する時田にシンジは頷く。
「御存知かどうか知りませんが、僕はＮＥＲＶの首脳部に嫌われていますので……」
シンジは時田の脇を抜け、肩の男を個室に放り込み扉に『清掃中』の札を掛けた。
「今日、態々僕をここに来させたのは、背後に何かあれば動きもあると思っての事でしょうけど……。ま、あの人も御苦労な事です」
しかし、いくら調べようとも、存在しない――今の所は――モノは出てくる筈が無い。シンジは掌に付いた埃を払う仕草をしながら、内心で肩を竦める。
「さて、お話の方を伺いましょうか？」
「あ、ああ……」
毒気を抜かれた時田は、曖昧に頷いた。
まさかトイレの前で立ち話もなんだと、時田はシンジを手近な休憩所に案内した。
しかし、時田は中々話を始めず、シンジの方から口を開いた。
「で、何を聞きたいんです？ 言っておきますが、機密に関る事は流石に話せませんので」
「あ……うん」
返事はしたものの、どう言ったら良いものかと口篭もる。
「……さっきも言ったように、私と赤木博士の話で何か感じる事があるなら聞かせて欲しいんだが」
シンジを子供と侮る気持ちが薄れたのか、真剣な口調で質問する。
「その前にお訊きしますが、ＪＡと言うのは“人型”ですか？ ＥＶＡサイズの？」
「えっ？ あ、ああ……」
それを聞いたシンジは天井を振り仰ぐ。
「“巨大人型兵器”という代物が、そもそも僕には理解し難いですが……」
嘆息しつつ続ける。
「取敢えず、それは置いておきましょう。まず『リアクター内蔵』というのにどういう意味があるんです？」
「それは無論、大出力と長期作戦行動の為だ」
会場での説明を繰り返す時田。
「大出力、は置いておいて……“機動兵器”に長期作戦能力を求めてどうするんです？ 既存のリアクター搭載兵器――原子力空母や原潜のようなものなら、それなりに納得出来ます。ですが機動兵器ですよ？ おまけに“人型”ときては、おそらく一日動かしただけで整備行きでしょ。意味が無いじゃないですか」
「安全面については言うまでも無く……」と付け加えられると、時田は唸るしかなかった。
「まあ、ＥＶＡの“５分間”というのも勘弁して欲しいですが。出来れば三十分は全力稼動してもらいたいですけど……それ以上はいいです。パイロットの方が保たない」
「ほう、そんなにきつい物なのかね？」
興味をそそられた時田は顔を上げる。
「実際乗ってみれば分かります。もし、毎日実際に乗る事になっていたら……多分、戦闘機パイロットより現役でいられる寿命は短いでしょうね」
「ふむ……」
「だからと言って、遠隔操縦はどうなんですかね。相手がまともじゃありませんから……」
実際の戦いを思い出すと、遠隔操縦では難しかったのではないかと思う。
「人の心、というのは……。そうですね……赤木さん――ＮＥＲＶだって何も分かってはいませんよ。分かったつもりになって、分かったフリをしていますが。そして……ＡＴフィールドも――ね」
ＡＴフィールドを自前で操れるシンジとて、心の何たるかなど解っている訳ではない。ましてやＮＥＲＶは、ただＥＶＡを使える――いや、動かす事が可能であるに過ぎない。それなのに、何故にリツコがあれ程断言出来たのか。
「ＡＴフィールドの事がいずれ解明されるのは間違い無いでしょう。ですがそれはいつになります？ 更に、解明されたとしても実用レベルに持っていくのにどのくらい掛かります？ 必要なのは“今”なんですけど」
その点は、分かってなどいなくとも、ＮＥＲＶの方がマシだろう。
シンジがそう結ぶと、時田は苦く笑う。
「……耳が痛いね」
「…………」
シンジは少しだけ驚きを表情に出した。
「何かね？」
時田がそれに気付き、尋ねる。
「いえ。或いは『子供が生意気な事を言うな』、と怒鳴られるかと思ってたので」
それを聞いて、時田は本当に笑い出す。正直なところ、時田もこうして話すまでシンジの事を『所詮子供』と侮っていた。こうまでまともに返されるとは思いも寄らなかった。
「ムカッときたのは確かだがね。それもかなり。だが、傾聴に値する意見であるのも確かだ」
シンジは頷く。
「正直な方だ。……それにＮＥＲＶの連中よりはマシな耳と脳を持ってらっしゃる」
「……ありがとう」
時田は些か引き攣り気味にシンジの賞賛に応えた。
「まあ、現場の立場から率直に言いますと、ＪＡのようなものは欲しいですね」
「ほう……」
「ただし、威力偵察と支援用ですが」
「…………使い捨てるのを前提にする、という事かな？」
「はい、だからリアクターは要りません。ＥＶＡと同じくバッテリーと有線で充分です。その辺を共通化しておけば、第三でなら直ぐ使えますし」
僅かに怒気を見せる時田を、シンジは真剣な表情で見詰め返す。
「お気を悪くしたのは当然だと思います。ですが、そういうものがあればＮＥＲＶが実戦で馬鹿をやらかす可能性が減りますし、僕達も随分と楽になるので……」
第五使徒戦では、ミサトは何の偵察行動もしないでＥＶＡを戦闘に投入した。これは第四使徒が通常兵器による迎撃に何の反撃も行わなかった所為であろうが、余りにも迂闊過ぎる。偵察というのは、たとえ無駄になったとしても行わねばならない事である筈だった。
ＮＥＲＶを好いてない国連軍や戦自が、損害が出る事を嫌って（損害が出てもＮＥＲＶが礼の一つもする訳ではない）攻撃を差し控えたのも一因であるが、あそこで偵察用の機材があれば、ミサトと言えどもそれを先に使用した……かもしれない。
「なるほど」
その説明にシンジが本気で言っている事を感じ取り、時田も真面目に頷いた。
「いや、本当に参考になったよ。……だが、現状では無理だね。残念ながら」
「でしょうね。なんせＮＥＲＶですから。……必要なら特務権限とやらでＪＡを取り上げる事はあっても、協力はしないでしょう」
シンジは『人の意志や想いを踏み躙るのが得意だからな、ＮＥＲＶは』と考えつつ頷き返した。
ＪＡ用に誂えたビルのような格納庫が左右に割れ、中のモノを陽光と外気に晒す。それの外観は、“合体変形機能”は無さそうな、ごく普通の巨大ロボットだった。
管制室の展望窓には招待客達が群がり、ＪＡに双眼鏡を向けている。ミサトとリツコはそこから離れた壁際に佇んでいた。更に距離を置き、腕を組んでそれらを眺めるシンジ。
「テスト開始」
「全動力開放」
「圧力、正常」
時田の号令と共に、次々と起動手順が進められていくＪＡ。リアクターがエネルギーを吐き出し始めると、続いて歩行動作に入る。
「歩行開始」
「歩行、前進微速。右脚、前へ」
「了解。歩行、前進微速。右脚、前へ」
妙にのんびりとしたその様子に、シンジは思わず苦笑する。
（時田氏には悪いけど、実戦投入出来るのは当分先だな。……いや、その頃には全部終わってるか？）
歓声が上がる室内。テストは順調に進むかと見えた。
だが、その場の空気を切り裂くように警報が鳴り響く。
次々と報告される、リアクターを始めとする異常。
悲鳴のように『制御不能』が告げられる。
突進してくるＪＡ。その動作はゆっくりしたものに見えたが、サイズがサイズである為スピードはかなりのものだった。
ドーム天井に足を乗せたＪＡは、体重を掛けてそこを踏み抜き、見事な足型を残した。
「……造った人に似て、礼儀知らずなロボットね」
突然見えるようになった青空を、呆れるように見遣ったミサトは皮肉を言うが、
「葛城さんが他人の礼儀を云々言えるとは、寡聞にして知りませんでしたが……」
冷静に服の埃を叩き落としながらのシンジの台詞に蹌踉く。
一瞬恨めしそうにシンジを見たミサトだったが、直ぐに気を取り直して時田の所に向かった。
それを見送りながら、シンジはこの場にいないファウストに“繋ぐ”。
《アレ……止まるんだろ？》
《はい、事故でもない限り》
《そう……》
シンジは薄く笑う。
《それじゃあ、見守らせてもらうとしようか。温かい目で》
《手は出さないんですか？》
《手はね。でも、口は出させてもらう》
《…………》
愉しそうなシンジの言葉に返ってきたのは無言。
《……どうかした？》
《いえ、シンジの性格が悪くなったような気がしたので》
《元から良くなかったと思うけどね。ＮＥＲＶと関っている所為で悪化したかな》
顎を撫でながらシンジが向ける視線の先に、悄然とする時田を怒鳴り付けるミサトの姿があった。
「……あ、日向君？ 厚木にナシつけといたから、初号機をＦ装備でコッチに寄越して。そう緊急事態」
「無駄よ。お止めなさい、葛城一尉。第一どうやって止めるつもりなの？」
着替えつつ携帯でＮＥＲＶに連絡するミサトに、リツコは冷たく声を掛ける。
「人間の手で直接」
防護服を手にしたミサトは、迷いも無く答えた。
管制室に戻ったミサトは、時田にＥＶＡを使ってＪＡを止め、乗込む事を告げた。
「本気ですか……」
「ええ」
「しかし、内部は既に汚染物質が充満している。危険過ぎる！」
危険を訴える時田だが、ミサトは取り合わない。
「上手くいけば、みんな助かります」
「…………」
時田の沈黙を打ち破るように、何かを叩き壊す音がした。振り向くと時田の部下の一人が、コンソールに斧を叩き込んでいた。
「ここの指揮信号が切られると、ハッチが手動で開きます」
「これでリアクター上部から、内部に侵入できます」
ミサトはそれに無言で頷く。
「……“キボウ”」
「！？」
聞こえた声に振り返る。ミサトに背を向け手を後ろで組んだ時田は続ける。
「プログラム消去のパスワードだ」
「……ありがとう」
呟いたミサトは踵を返した。
壁に凭れて腕を組み、無言で事態を見守っていたシンジの所に歩み寄るとウィンクする。
「よっしゃ、シンジ君。厚木に初号機が来るわ。頼んだわよっ！」
「……僕が何かするんですか？」
シンジの脇を通り過ぎようとしたミサトは、当然付いて来てくれると思ったシンジにそう言われコケる。
「ちょっと、聞いてなかったの！？ 初号機を使ってあの暴走ロボットを止めるのよっ！」
「僕が、ですか？」
「あったりまえでしょうが！！」
「お断りします」
素気無く断られミサトは目を剥く。
「……僕をＥＶＡに乗せるには、それなりの報酬が必要なんですよ？」
「アンタ！ 何言ってんのよっ！」
掴み掛ろうとしたミサトだが、シンジの冷たい目を見て以前の事を思い出し、手を止める。
「御自分の懐が痛まないからって、軽々しく考え過ぎなんじゃないですか？」
「……っざけんじゃないわよ！ アレが炉心融解したら辺り一面汚染されるのよ！ 人だって死ぬかもしれないわ！ アンタ、それより金の方が大事だってぇのっ！？」
ミサトは歯軋りしながら吠え、シンジを責める。だが、シンジは涼しい顔でそれを受け流す。
「金なんぞ、どうでも良いです。ただ、ＥＶＡなんか使う必要は無い――と言うか止める必要は無い、と言いたかっただけです」
「っ！？」
「ほっとけば勝手に止まりますよ、アレ」
「な、何を言って……」
意外過ぎるシンジの言葉に、ミサトは戸惑う。
「どんな根拠があって、そんな……」
「赤木さんが、全く落着いていますから」
サラリと言ってリツコに目を遣り、釣られたミサトもそちらを見る。
二人の視線の先で、リツコがほんの僅かに身動ぎした。
「貴重な“筈”のＥＶＡパイロットが、危険に曝され掛けているんですよ？ 普通なら急いで逃がすか、或いはＥＶＡの中が一番安全、という事で積極的に乗せようとするんじゃないですか？ それなのに全然何も言わないなんて……変ですよ」
「…………」
「それにＪＡがこんな事になって一番喜ぶのは、どこの誰でしょうね？」
詰まるところ、ＮＥＲＶが裏で糸を引いているのだ、と無言で指摘する。
ミサト――だけではない。シンジの話が聞こえていた者、全員がリツコに疑惑の目を向ける。
「……証拠は……あるのかしら？」
リツコは掠れた声で、漸くそれだけを言う。
「まるで刑事ドラマの犯人のような台詞ですね。証拠は、無いです――」
シンジは笑う。
「――大方、暴走プログラムを仕込んだんでしょうが……用が終われば自己消去するくらいの細工はしてあるでしょうし」
今度は時田の方を見る。
「どうです時田さん。御自分で乗り込んで、その目で確かめてみますか？ よろしければＥＶＡでお送りしますけど？ ま、そこまでしなくとも、メルトダウン寸前でアレが停止すれば、状況証拠にはなるかもしれませんが」
自然停止の確率は０．０００２％。Ｏ９よりはマシとは言え、これが停まれば確かに奇蹟の領分だろう。……人の手が加わっていなければ。
「……そこまでするかね、ＮＥＲＶは？」
「ええ、しますよ。どういう訳かＮＥＲＶは、使徒殲滅に他の組織が絡むのを嫌っているようですから」
今や時田を始めとする日重共の人間は、殺しかねない目でリツコを睨んでいた。
「もっとも、『言う事を聞かないパイロット』を――ついでに『役に立たない作戦部長』を諸共に始末しようと考えている可能性もあるんですが……。技術部長兼愛人も――」
場違いに愉しげな声でシンジが続ける。
「――まあ、代わりはいますか。必要なら、マヤさんでもコマすでしょうし」
完全に冷え切った室内に、シンジの笑い声が響いた。
ＪＡは停止していた。
仕組まれた奇蹟――茶番劇のシナリオに従って。
管制室は死のような静寂に包まれていた。
だが、そこに立ち籠めるのは怒り。そして、それを向けられる二人は、ただ怯えるしかない。
その空気を一つの拍手が打ち破る。
「いやまったく、碇ゲンドウという男は“大した男”だ。そう思いませんか、赤木さん？」
「…………」
笑いながら尋ねるシンジに、リツコは何も答えられない。
シンジの拍手と声を切っ掛けに時田は気を取り直し、ミサトとリツコに一瞥だけくれると矢継ぎ早に指示を出し始め、部屋は喧騒に満たされた。最早二人には、誰も目を向けない。
笑いを収めたシンジは、時田の背中を見ながら考える。
（“キボウ”――“希望”か……）
時田にも、欲も有れば野心も有るだろう。だがそれは人間であれば当然の事だ。或いはそれを悪と見なす者もいるかもしれないが――
（――面白いな……うん、面白い）
「……ＪＡの起動試験失敗は予定通りです。しかしシンジ君の行動によって、ＮＥＲＶに疑惑の目が向けられたようです。……物的証拠は何も残しませんでしたが」
「…………」
薄暗い司令公務室で、疲れきった様子で報告するリツコに、ゲンドウは無言を返す。
結局、今回の事はシンジの御蔭で『シナリオ通り』とは言い難いものに終わった。ＮＥＲＶが関与したという証拠は無い為、今直ぐどうなるものではないだろうが、この先どのような影響が出ないとも限らない。
そして、もう一つの目的である、『シンジの背後を洗う』というのも上手くいかなかったらしい。一緒に報告に来ている保安諜報部の黒服が、気の所為か項垂れているようにも見えた。
「葛城一尉にも……何か影響があったかもしれません」
「構わん、何が出来る訳でもない。放っておけ」
「……はい」
頷きつつ、自分の前にいる瞳を見せない男を見詰める。
『大した男』
自分とシンジが言った言葉が頭を過ぎる。
（ふん、何をやってるのかしらね……私も……）
リツコは顔に出す事無く自嘲した。
葛城ミサトは朝からヱビチュの缶を呷っていた。
あられもない格好であったが、注意する者は誰もいない。
ミサトの内心では様々なものが荒れ狂っている。
ＮＥＲＶに対する疑惑。リツコに対する不信。シンジへの怒り。……そして自身への苛立ち。
心地良い筈のヱビチュが、いつに無く苦かった。
いや、ここのところ美味しく飲めた事があっただろうか？
「……ふんっ！」
空になった缶を握り潰し、放り投げる。
「クワッ！？」
壁に当たって跳ね返ったそれを、ペンペンが慌てて避ける。
夢の島と化したこの地に、新たな構成物が加わった。
レイと連れ立って学校へ向かう途上、シンジは欠伸を噛殺していた。
無言で歩く二人に、背後から声が掛けられる。
「よぉ、おはようさん、センセ、……綾波」
「おっはよう」
二人は振向き、小走りに近付いてくるトウジとケンスケを認めた。
「おふぁよう」
「……おはよう」
シンジだけでなく、レイも挨拶を返す。
「えろぉ、眠そうやの〜」
「いけませんなぁ、夜の生活はホドホドにしないと……」
「ウヒヒ……」と、何を想像しているか丸判りの笑いをケンスケが漏らす。
「なぁに考えてるかな〜〜……」
「…………」
呆れ果てるシンジと、何も分かっていないレイ。
そもそも、シンジとレイは途中で行き会っただけで、未だ一緒に住んではいない。昨日も夕食の後、レイは自宅に帰っている。
その後、シンジは日重共と時田の事を本格的に調べ始め、結局完徹する事になっていた。
「せや……昨日休んどったけど、なんぞあったんかいな？」
「ああ、昨日ね……」
シンジは少し言葉を濁す。
「……ある大した男が素敵な事を企み、魅力的な女性がそれを実行した事で当然至極の結果を生み出し、何とも素晴らしい騒ぎになった……とまあ、そんなところ」
「「はぁ？」」
トウジとケンスケは揃って疑問の声を上げる。
「世の中は馬鹿に満ちている、と言っても良いかな」
その馬鹿がお互いに傷付け合って、より馬鹿げた事態を引き起こし傷を広げ合う。
（何より馬鹿は……それが分かってて、付き合う僕かな？）
三人の視線を受けながら、シンジは朝から不健康な事を考えている自分を顧みる。一瞬自嘲の笑みを浮かべたシンジだが、それを振り払い空を振り仰ぐ。
陽光に細めた目が、のんびりと空を横切る黒い影を捉える。
今日も暑くなりそうだった。
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