ALL'S RIGHT WITH THE WORLD
六第話 C-Part
日の暮れた第３新東京では、ライトアップされた使徒が無言のまま穴掘りに勤しんでいる。
既に十七層の装甲板が突破されつつある中、人々は手出しも出来ずそれを見守るしかない。いや、目の前の仕事に集中する事で、頭上に迫る危機を忘れようとしていたのかもしれない。
二子山朝日滝付近の道路は電力車が列をなし、山頂へ向けて膨大な電力を運び込むべく待機していた。
既に日本各地からの通電は完了し、冷却システムも試運転に入っている。
山頂では零号機の手で陽電子砲が据え付けられている。
ＮＥＲＶの手で改造を受けたそれは、正しくＥＶＡサイズの狙撃銃――或いは対戦車ライフル――だった。
「……試作機、どころか実験機ですね、これは」
「……そうね」
シンジの評価にリツコが同意する。
「……大丈夫なんですか？」
「理論上はね。けど、銃身や加速器が持つかどうかは、撃ってみなければ分からないわ。こんな大出力で試射した事、一度も無いから」
「心強い御言葉……。嬉しくって、涙が出そうですよ」
「…………」
溜息混じりのシンジの皮肉に、リツコは辛うじて表情を変えることを抑制する。
シンジは“持つかどうか”だけを心配している訳ではない。試射をせず、射撃データの無い――つまり癖の分からない銃で長距離射撃を成功させると言うのが、どれ程無茶な注文か……。いかなＭＡＧＩとて、データが無くては精確な計算など出来よう筈も無い。
これも含めて、改めて作戦の問題点を考えてみる。
先制出来るか否か？ 銃と電源設備が持つかどうか？ 初弾を命中させられるか？ 加粒子砲を撃たれた場合、防ぐ事が出来るか？ 第一射による負荷がどうなるのか？ 加粒子砲を防いだり命中を免れても、その影響がどうなるのか……？
はっきり言って８．７％という成功率は、かなり楽観的に過ぎる数字に思える。
シンジの内心を察したのかどうか、リツコが話し掛ける。
「……その割には余裕がありそうね？」
「ま、僕はやる事をやるだけですし。失敗したら……その時は、碇司令の責任ですから」
「気楽なものです」と付け加えるシンジに、リツコはとうとう表情筋を動かした。
「それじゃあ、作戦の最終確認をするわよ」
仮説基地でライトを浴びながら、腰に手を当てたミサトが宣言する。
「先にも言った通り、砲手はレイ。防御はシンジ君よ」
「はい」
「……はい」
「陽電子は地球の自転、磁場、重力に影響を受け、直進しません。その誤差を修正するのを忘れず、正確にコア一点のみを貫くのよ」
「…………」
「……ちょっと待って下さい」
リツコの説明にレイは沈黙し、シンジが尋ねる。
「そういった要素を、まさか綾波が計算するんですか？」
「いいえ。……テキスト通りにやって、真ん中のマークが揃ったらスイッチを押せば、後は機械がやってくれるわ」
「なら、さっきの説明は、一体何なんですか……？」
シンジはカクンと首を落す。
「ごめんなさい……。それと、第二射には時間が掛かる事は言ったわね。だけどあなたは余計な事は考えないで、一撃で撃破する事だけを考えなさい」
「……はい」
「第一射が外れたり、先に撃たれたりした時は、シンジ君が防ぐのよ」
「了解」
レイが頷くのを確認するとミサトはシンジに声を掛け、シンジは気負いも無く請負った。
「ふへぇ〜〜〜〜……」
指揮車に乗り込んだミサトは、思い切り溜息を吐きながら項垂れた。
「ミサト、だれてないでしゃんとしなさい。士気に関るわよ」
リツコがミサトの耳に囁く。
「だ〜って〜〜。冷静になって考えてみれば、確かにシンジ君の案が良さそうなんだもの……。結局、シンジ君もこの作戦を信じていないみたいだしさ……」
ミサトがモニターに目を向けるのに釣られて、リツコもそちらを見る。そこには片膝を立てて佇む初号機の姿があった。
「シンジく〜ん。失敗したら碇司令が悪いんだからね〜。殴るんなら司令にしてよぉ〜〜……」
「……いい加減にしなさい」
一段低い声で言って、脇腹を肘で突付く。ここにいる者でシンジの案を聞いたのは、ミサトとリツコしかいない。余計な事を他の者に聞かせたくなかった。
「今の所、使徒に動きは無いわ。シンジ君の懸念も杞憂で終わるんじゃない？」
自分に言い聞かせるようなリツコの言葉だったが、ミサトは幾分元気を取戻す。
「……そうね。あの生意気な餓鬼の言う事が、正しいとは限らないわ」
ミサトの方は何とか納得させたものの、リツコ自身はそれ程楽観的になれなかった。
（失敗した場合は……シンジ君に任せるしかないわね……。でも、本当にやれるつもりなの……？）
リツコは黙ってモニターに映る初号機と、シンジに言われて“用意”したものを見詰めた。
日本中の街という街から灯火が消えていく。
それは第３新東京も例外ではない。
地上の光が失われると、天上の光がその存在を主張し始める。
中でも銀色のそれが、淡く、強く。
虫の声に交じり、人の声が響く。
低く、緩やかに。
「Fly me to the moon And let me play among the stars
Let me see what Spring is like On Jupiter and Mars
In other words, hold my hand In other words, darling, kiss me」
月の光を浴びながら、シンジとレイは昇降機のタラップに座っていた。
シンジはタラップの端から足を垂らし、後に手を付いて月を見上げながら。
レイは膝を抱え、俯くように。
シンジの声に耳を傾けているのか、レイは一言も発しない。
「Fill my heart with song And let me sing forevermore
You are all I long for All I worship and adore
In other words, please be true In other words, I love you……」
たった一人を聴衆にしたコーラスが終わる。
しかし、シンジが歌を止めても、虫達は歌い続ける。
暫く黙ってそれを聴いていたシンジが、再び口を開いた。
「……見てるな、こっちを」
その呟きに、レイが顔を向ける。
シンジの視線の遥か先には第３新東京、そしてその中心に鎮座する使徒の姿があった。
使徒に目などがある訳ではないが、盛んに意識を向けてくる気配がひしひしと感じられた。
「奴さん、こっちが気になって仕方無いらしい。今のところ穴掘りの方に夢中のようだけど」
正確には、地下のリリス――アダムの誤認――に気を取られている、のだが。
これが人間なら、こちらの意図を探る為に偵察でもしているだろうが、幸いにも使徒にはそれは不可能らしい。もっとも、こちらが“騒がしく”なり始めれば、「取敢えず、一発撃ってみよう」と考えるかもしれない。
今この瞬間撃たれでもしたらただでは済まない筈なのだが、シンジの顔にも声にもさして緊張は見られない。……いざとなれば、乗り込まなくとも初号機を動かせるからであるが。
「なぜ……」
「ん……？」
「何故、アナタは盾になるのを選んだの……？」
そんなシンジから視線を外しながら、レイは呟くように尋ねる。
シンジの言う通りなら、防御役の危険は当初より格段に跳ね上がっている。何故、命令された訳でもないのに、より危険な役目を進んで引き受けるのか知りたかった。
「何故って……。言った通り、その方が皆が生残れる確率が高いからだけど」
「でも……アナタが死ぬかもしれない……」
「今更」といった感じでシンジが答えるが、レイは納得しない。
「僕は、そう簡単には死なない。それに、僕はある種、古いタイプの人間でね。女子供を危険な目に遭わせるより、自分を危険に晒した方がマシなんだよ。
綾波が防御に廻ったら、綾波が死ぬ事になるかもしれないから……そんな事をさせる訳にはね」
「……………………
……私が……死んでも…………」
「綾波……」
レイが言い掛けるのをやや強く遮るが、彼女が何を言おうとしたのか判っても、自分はどう言ってやれば良いのか判らず口篭もる。
「綾波は僕が守るから……。だから心配しなくて良い」
何とかそう言ってシンジは笑い掛けるが、レイは俯いたまま応えない。
レイのその様子に、シンジは困った様に頭を掻く。
「……まあ、どうしても余計な事を考えてしまうなら、別の楽しい事でも考えた方が……」
シンジは言い掛けたが、途中で口を閉ざす。レイが“楽しい事”を待っていない、或いはそういう思考が出来ないであろう事に思い当たる。
普段レイが空いた時間をどう使っているかと言うと、ただぼんやりとどこかを眺めているか、精々本を読んでいる位しかシンジは思い当たらない。夕食後、シンジがチェロを弾いた事などもあるが、その時も耳には入っていても聴いているのかは良く判らなかった。
二人が沈黙したまま時が流れる。
何も言えぬまま月を眺めていたシンジは、作戦開始を告げるアラーム音に顔を戻す。
「さて――時間だ……」
立ち上がり大きく伸びをするシンジの耳朶に、小さな声が触れる。
「……さっきの――」
動きを止め、声の主の方を振り返る。
「さっきの歌は……なに……？」
シンジは少し戸惑い、膝を抱え俯いたままのレイを見るが、やがて顔を綻ばせ口を開く。
「……FLY ME TO THE MOON（私を月まで連れてって）」
シンジは初号機に乗り込み、気配を殺して作戦開始を待っていた。
ミサト達に散々文句は言ったものの、わざと作戦を失敗させるつもりは無い。だが、ＥＶＡが二体揃っている上、陽電子砲発射の為のエネルギーがここに集まり出せば、使徒も大人しくはしていてくれないだろう。
初号機は背面に非常用バッテリーを装備し、傍らにはソニック・グレイブ、スマッシュホーク、パレットライフルが置かれている。
「使わないで済めば、それに越した事は無いんだけどね……」
恐らくそう上手くはいかないだろうと思いつつ、呟いた。
『只今より、０時００分００秒をお知らせします』
「作戦スタートです！」
時報と共に、日向が告げる。
「レイ、日本中のエネルギー、あなたに預けるわ。頑張ってね！」
『はい』
ミサトの激励に、しかしレイから返ってきた応えからは感情が窺えない。
「第一次接続開始！」
「第１から第８０３間区まで送電開始」
「電圧上昇中。加圧域へ」
発射シークエンスが開始されると、指揮車の中は一段と緊張と喧騒に満たされる。
「全冷却システム、出力最大へ」
「温度安定、問題無し」
「陽電子流入、順調なり」
「第二次接続」
『全加速器、運転開始』
『強制集束機、作動』
『全電力、二子山増設変電所へ』
『第三次接続、問題無し』
（――来る……）
初号機にも流れてくる報告を片耳で聞きながら、シンジは盾を軽く持ち上げソニック・グレイブを手にした。
『最終安全装置、解除！』
『撃鉄、起こせ！』
伏射姿勢の零号機が、指示に従い手動で撃鉄を上げる。
安全装置の表示が切り替わる。
零号機のプラグ内ではレイの頭から目にかけて狙撃用ヘッドギアが被さり、内側のディスプレイにはワイヤーフレームで描かれた使徒と、未だ合わさらぬ照準が映っていた。
「地球自転、及び重力の誤差修正プラス０．０００９」
「電圧発射点まで、あと０．２」
限界まで力を振絞る変圧器は火花を散らし、ケーブルは各所から煙を吹き上げる。
「第七次最終接続。全エネルギー、ポジトロンライフルへっ！」
開始されるカウント。
だが、それをマヤの声が遮る。
「目標に高エネルギー反応！」
「！！」
予想していた事態に、リツコはミサトに目をやる。
撃つか、守るか。
迷う時間は無かった。
「……４……３……２……」
ミサトは決断する。
「発射っ！」
二種類の光が互いに向けて撃ち出されたのは、ほぼ同時だった。
僅かに遅れて初号機が動いた。
湖の上で擦違おうとした二条の光は、干渉し合い、捻れ、螺旋を描く。
共に目標を外れた光弾は、山腹に着弾し火柱を上げる。
その衝撃波と爆風に煽られ、指揮車の中の人間は激しくシェイクされた。
悲鳴が上がる車内で真っ先に立ち上がったミサトは、ノイズ混じりのモニターに顔を近付ける。
「ミスった……！？」
初号機が投擲したソニック・グレイブは軽く音速を突破し、目的地までの数秒間、ごく緩やかな山なりの弾道を飛翔した。
《命中しました。コアは無傷ですが、加速器に損傷を与えました》
第３新東京で、着弾観測をしていたファウストから報告が来る。
《殲滅――という訳にはいかないか。この条件じゃ、当たっただけでも上等……》
如何に強力なＡＴフィールドを持とうとも、加粒子砲を撃つ時はそれを解かねばならない。ＮＥＲＶが行った威力偵察を独自に分析して、それは判っていた。ただ、フィールドを張り直すまでに、こちらの攻撃が間に合うかどうか微妙だったが。
《ですが急速に修復中です。加粒子砲が発射可能になるのも時間の問題でしょう》
《得物が小さい所為で傷も小さかったか。でも、こちらの第二射が間に合えば……》
「敵シールド、ジオフロントに侵入！」
「第二射、急いで！！」
第一射の失敗と本部からの報告にも闘志を失わず、ミサトは叫ぶが、
「ポジトロンライフル、加速器に異常発生！」
「着弾の衝撃で変圧器が破損！ ケーブルの一部も切断しました！」
相次いで悲痛な報告が入る。
「そんな！？ リツコ！」
「駄目！ 修理の時間はないわ！」
ミサトの叫びに、リツコの否定の言葉が返る。
修理しようにも、そもそも人手が無い。作戦開始に先立って、指揮車の人間以外は退避させていた。もっとも、人がいたところで修理の時間があったかどうか疑わしいし、先程の爆発でどうなっていたかも分からない。
最早、ミサトにもリツコにも打つ手は無かった。
「くそっ、やっぱりこうなったか」
シンジは悪態を吐く。
これまでに無い出力の加粒子砲の一撃が来た事は予想通り。それによってこちらが攻撃能力を失う事も、半ば想定していた。とは言え、警告をしておいたにも関わらずこの無策。そのツケをこちらに回されるのは、そのつもりであっても堪ったものではない。
しかし、その事は置いておいて、直ぐさま現実に対処する。
「綾波、盾を！」
持っていた盾を零号機に放ると、アンビリカルケーブルをパージして二子山を駆け下りる。両の手には、其々スマッシュホークとパレットライフルを持って。
零号機を加粒子砲の射線に入れないようにして、使徒に向かって疾走する初号機。
道路を踏み砕き、木々を薙倒し、山肌を突き崩して突き進む。
攻撃を受けぬまま半ばを過ぎたが、そのままで済む筈も無かった。
《加速器、運転再開しました》
ファウストが警告する。
使徒は突き刺さったソニック・グレイブを体外に押し出し損傷を修復すると、加粒子砲を撃つべくその巨躯にエネルギーを満たしていく。
シンジは使徒がこちらに狙いを付けたのを感じる。
それは望むところだった。
そして、それが分かっていても足を止める訳にはいかない。
足を進ませる事はスルト自身に任せ、シンジは加粒子砲を見切る事だけに集中する。
ＡＴフィールドを張る事は考えない。
シンジの脳裏には使徒の姿しか映っていない。
使徒が力を貯め、それを吐き出す瞬間を待つ。
僅かに横にステップ。
装甲を掠める光。
後方で巻起こる爆発。
零号機を狙った時よりは威力は低いが、それでも命中すれば無事では済まない。
粒子の加速時間を短くしているのか、左程間を置かずに次撃が来る。
躱す。
続けて二撃、三撃。
それも躱す。
照準の確かさが反って有難い。射撃のその瞬間が分れば、躱す事は“不可能ではない”。
次の射撃にやや間が空く。
（狙って、当てる事が難しいと判れば――）
初号機を思い切り踏み切らせる。
（――掃射……！！）
舞い上がった初号機の足の下を、光が扇状に薙ぎ払われる。
一瞬の強烈なＧと、続く浮揚感。
羽根の無い初号機は、空に上がれば避ける術は無い。
が、仰角や俯角を取れないという判断が正しかったのか、宙にある初号機を使徒は撃ってこない。
やがて放物線の頂点に達した初号機は、今度は落下を始める。
地面にシールドを刺している使徒は、動く事が出来ない。
初号機は使徒のＡＴフィールドを突破ると、上向きのピラミッドの一面に膨大な運動エネルギーを込めた急角度からの跳び蹴りを浴びせた。
シールドが根元から圧し折れ、斜めに傾いで地面に横たわる使徒。
初号機の蹴りを受けた面は大きく陥没している。
外皮を突破って片足をめり込ませ、使徒に取り付いたままだった初号機は、足を引抜くとその傷口にパレットライフルの銃口を押し当て引金を引く。
体液と肉片が飛び散り、初号機の前面を斑に彩る。
苦痛を感じているのか、使徒は悶えその巨体を浮揚させて揺する。
初号機はもう片手のスマッシュホークを使徒に打ち込み、振り落とされないようにすると、更に銃弾を送り込む。
銃弾が尽きるとライフルを捨て、スマッシュホークを振るう。
それはもう戦闘ではなく、解体作業と言うべきだったかもしれない。
濡れた何かを叩き、切り裂く音が辺りに響く。
それでも初号機は手を止めない。
ただ、ひたすらに武器を振るう。
やがて、使徒は断末魔の身震いをすると、その身を重力に委ねた。
相手の命の火が消えたのを確認すると、初号機も漸く手を止め地面に降り立ち、膝と手をつく。
闇に包まれた第３新東京は、再び静けさを取戻した。
二子山の指揮車の中は、そしてＮＥＲＶ本部の発令所でも、声を出す者は無かった。
ただ、魅入られたように無言でモニターを見詰める。
そこに映っているのは、全身を朱に染めた悪鬼の如き姿で佇む初号機。
無残な屍となった使徒。
大地を血で塗らす第３新東京。
使徒を倒し戦いに勝ったというのに、誰も歓声を上げない。
微かな機械の作動音だけが支配する車内に、誰かが嘔くのを抑える声が響いた。
片膝立ちし、自らが倒した使徒に向かって哀悼の意を示すかのように軽く項垂れている初号機だが、中のシンジはそれ程殊勝な気分を抱いてはいない。周囲と初号機の凄惨な様子も、それ自体は如何程のものでもない。
無論、自分が殺した者への感慨を持っていない訳ではなかったが、思考はあくまで現実的だった。
二子山を下りて以来緊張を続け強張った手をレバーから引き剥がし、指を何度か屈曲させる。全身のあちこちの関節を動かし、筋肉を解すと長く息を吐き出す。
「取敢えず作戦の失敗を尻拭いしてやった事で、ＮＥＲＶに対して貸しが出来た筈だけど……」
連中が素直に恩なり借りなりと感じてくれるかどうか。寧ろ、警戒心や筋違いの恨み――ゲンドウやミサトの――を向けられるのが目に見えていた。
「やり難くなりそうだな、また……」
判ってはいても頭が痛くなる。
それに……この先、初号機とシンジの能力に依存した、更に無茶な作戦を立てるようにならなければ良いが。
もう一つの懸念は、今回の戦いで次の使徒がどうなるか、という事。前回、前々回と比べても、さしたる力は見せていない為、影響は最小限に止められた――とは思う。
単なる“物体”となった使徒を見上げる。
「……使徒って、喰えないのかな？」
ふと、思い付いて口に出してみる。
先程まで深刻な事を考えていたとは思えない、暢気な口調だった。
レイは指示の無いままプラグをイジェクトし、機外に顔を出した。
肉眼では第３新東京の様子を窺う事は叶わない。
だが、濡れた髪を風に弄らせ、全身に銀光を浴びるレイは、それでもシンジが向かって行ったそこから目を逸らす事は無かった。
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