ALL'S RIGHT WITH THE WORLD
第弐話 C-Part
眠りから覚めたシンジの目に、“天井”からぶら下がったビルが映った。
バッグを枕にしたシンジが眠っていたのは木立の根元であったが、そこは戸外でありながら屋外ではなかった。
それについては特に感慨もなく、直ぐに意識を覚醒状態にもっていき身を起こす。
《おはようございます》
「おはよう……ふぁ」
相変らず姿を隠したままのファウストと挨拶を交わす。
いつもなら日課の鍛錬を始めるところであるが、監視の付いている状態でする気は起きなかった。いっその事、襲撃してやろうかと思わないでもなかったが。
「ま、それはそれとして……まずは情報収集。父さんが何を企んでいるか調べないと」
《……何からいきます？》
「うん、父さんをシメあげるのが一番手っ取り早いんだろうけど……尋常な手段からやっていこう。でも……」
伸びをして、身体を解していく。
「取敢えず顔を洗って……それから朝飯だな」
《では、私はジオフロント内を調べておきます》
「うん、お願い」
シンジは呟くと、本部の方へゆっくりと歩き出した。
戦闘痕の調査を終えたミサトとリツコはトレーラーに乗り込み、ＮＥＲＶ本部への帰路に就いていた。
暫く無言だった二人だが、やがてミサトがリツコに話し掛けた。
「あのさぁ、リツコぉ。司令とシンジ君が話し合ったみたいだけど、結局どうなったのかなぁ。シンジ君、ＥＶＡに乗ってくれるのかしら？」
「……あっきれた。ミサト、アナタ作戦部長でしょう？ 真っ先に確認しないでどうするの？」
「だぁ〜ってさぁ、昨夜はあんな事になっちゃたじゃない。なーんか、訊き難いのよねぇ〜……」
「無様ね……。まあ、気持ちも判らないではないけど……」
「な〜によ。で、結局リツコは知ってんの？」
「……そうね。私もまだ知らないわ」
リツコは「人の事は言えないわね」、と口の中だけで付け加える。その答えにミサトは溜息を吐いてぼやく。
「はぁ〜〜。それにしてもシンジ君て何なのよ？ ホントに唯の中学生なの？ って言うか、性格が報告書と全然違うじゃない」
「……そうね、確かに変だわ。調べる必要があるわね……」
「ふーーん……」
考え込んだリツコだったが、ミサトが自分を眺めているのを感じて顔を上げた。
「なによ？」
「んんーー。いつものアンタなら、今頃嬉々としてシンジ君を部屋に連込んで、メスで切り刻んでいるんじゃないかな〜、っと思ってさ」
「……ミサト……アナタ、私を何だと……」
「勿論、マッド――……スイマセン。何でも無いデス。冗談デス」
リツコの視線に身の危険を感じたミサトは、それを避けるように姿勢を正して棒読みの台詞を喋る。その様子に鼻を鳴らしたリツコだったが、直ぐに自分の考えに沈む。
（確かにいつもの私らしくないわね……。無意識に、シンジ君に関わるのを避けようとしているのかしら……？）
そして、昨晩銃口と共に向けられたシンジの瞳を思い出し、小さく身震いした。
午前中ジオフロント内を散策――調査を兼ねていたが――して過ごしたシンジは、午後になってふと思い付きＮＥＲＶ内の病院に足を向けた。受付で病室を訊いてそちらへ向う。
或いは面会を認められないかとも思ったが、あっさりと教えてられてシンジは少し拍子抜けしてしまう。まあ、断られたら、気配を辿って勝手に行かせてもらうつもりだったが。
扉の前に立ってノックをしてみるが返事が無い。中の気配を探ってみると、眠っている訳でもなく起きて動いている訳でもなさそうである。取敢えず「失礼します」と言いながらドアを開け、中に入る。
シンジは入って直ぐに監視カメラ等の存在を察知したが、別段不都合がある訳ではないと放っておく事にする。
「こんにちは、綾波さん」
近付いて挨拶をしたシンジに、体を起こしたレイは顔を向ける。
「アナタ、誰？」
レイは感情を感じさせない声で尋ねる。
「僕は碇シンジ。昨夜ＥＶＡの格納庫で逢ったけど、憶えていないかな？」
「碇シンジ……サードチルドレン……碇司令の息子……」
「残念だけど、両方ともハズレだよ」
レイの呟きにシンジは苦笑する。
「……サードチルドレンじゃないの？」
「その呼び方は道具扱いされているみたいに聞こえるからね。止めてもらったんだ。
もっともパイロットにはなったけど」
「――そう……」
「ま、そういう事なんで、これからよろしく」
「命令ならそうするわ」
「……命令って……誰が誰にそんな命令をするのかな？」
首を傾げながらシンジは改めてレイを観察した。昨晩と同様、詳しくは指摘出来ないものの、明らかに他の人間と異なる気配を感じてシンジは首を傾げる。もっともシンジはここ数年、それ程多数の人間に関わっている訳ではないので、それが単なる個人差であるのか判断が付かなかった。
「……何？」
自分を眺めたまま何も言わないシンジを不思議に思ったのか、レイが声を掛ける。
「ああ、怪我の具合はどうなの？」
「問題無いわ」
「そう、良かった」
シンジはそう言って笑いながら、『折角治したんだしね』と考えていた。
「ところで、その怪我はどうしたのかな？」
「……どうしてそんな事を訊くの？」
「んーー、多分ＥＶＡ絡みだとは見当が付くんだけど、それなら僕も気を付けなけりゃならないし。……いや、ただの興味かな？」
質問に質問で返したレイにシンジは答える。
「…………零号機の起動実験の失敗。その時の怪我」
「そう……ＥＶＡって他にもあるんだ」
まあ、兵器なら当然だ、と思う。
「それにしても、君はそんな怪我をしてもまだＥＶＡに乗せられるのかい？ 怖くないの？」
シンジのその言葉を聞いて、レイは初めてはっきりした感情――怒り――を見せた。
「アナタ、碇司令の子供でしょ。信じられないの？ お父さんの仕事が」
レイの様子と言葉にシンジは一瞬呆気に取られ、そして笑い出した。
「悪いけど綾波さん。血の繋がりがあると言うだけで人間が信じ合える訳じゃないよ」
なにせ聖書においては、最初の殺人は“弟殺し”である。
「……人間が他人の信用を得るには、自分が信用出来る事を証明していく必要がある。残念だけど司令はそれを完全に怠っている。特に昨日は酷かったね」
なおも自分を睨むレイを見詰め返しながら続ける。
「それに昨夜、はっきり肯定されたよ。『お前は“使い捨ての道具”だ』ってね」
『無言の肯定、と言う奴だけど』と思いながらシンジがそう結ぶと、レイは流石に視線を落とす。
二人が口を閉じた病室に沈黙が漂う。
やがてシンジは再び口を開く。
「綾波さんは司令の事を信じているみたいだけど、それはどうしてなの？」
「……起動実験の失敗の時、司令は私を助けてくれたわ……」
レイは小さな声でそう言ったが、シンジはそれがゲンドウのイメージと全く結び付かず、思い切り首を捻った。
「……それにしては、昨夜の事は矛盾してないかな？ いくら僕を乗せる為の茶番劇だったとは言え、君が安静の必要な大怪我だった事は間違いなかったんだから……」
（と言う事は、一応綾波さんが大事なのかもしれないけど、それ以上に父さんにとっては初号機が――いや、初号機に僕を“乗せる”事が重要だと言う事なのか？
……初号機には何があるんだ？ それを調べる必要があるな）
思考を進めたシンジは、取敢えずの結論を出した。
「まあ、司令にとって綾波さんは、僕よりは大事な“道具”といったところかな？」
そう言ってシンジはそろそろお暇しようと背筋を伸ばす。その耳にレイの呟きが入ってきた。
「……私は……道具じゃない……」
レイのその様子に心を痛めたシンジだが、それでもこのままではレイが道具として良い様に利用されるだけだと考えて言う。
「気の毒だとは思うけどね。司令にとっては綾波さんの想いは重要じゃない。『道具じゃない、道具は嫌だ』と言うなら、司令から離れた方が良いんじゃない？」
シンジは俯いて何も応えないレイの頭に、そっと掌を乗せる。
思わずシンジを振り仰いだレイに、シンジは微笑んで言う。
「きつい事を言ってゴメン。でも、綾波さんは自分をもっと大切にした方がいいと思う。それにはまず、自分自身で考えるようにしないと」
ゆっくりと頭を撫でるシンジを、レイは無言で見詰めた。だがレイは嫌がる素振は見せない。
やがてシンジは手を離す。
「それじゃあ、綾波さん。今日はこれで失礼するよ。お大事にね」
シンジは挨拶をして病室を出ようとしたが、扉の所で振り返る。
「ああ、それからもう一つ。僕と司令は今日から親子じゃない。昨夜、縁を切ったからね」
少し驚いた顔をするレイに手を振るとシンジは部屋を出て行き、後にはレイだけが残された。
レイの病室を出て廊下を歩くシンジは、前方からミサトが近付いてくるのを見て足を止めた。
「こんにちは、葛城さん。何か御用ですか？」
「シンジ君、ありがと〜〜！ ＥＶＡに乗ってくれるんですって？ お姉さん嬉しいわ、感謝感激よ！！」
「……いえ、別に感謝される事ではありません」
ミサトのあまりの馴れ々々しさに、思わず一歩引きながら答える。
「もう！ 照れなくていいのよ！」
「……照れてなんかいません。ビジネスですから」
その浮かれぶりに『こちらが出した条件を聞いていないのか』と不審に思い、それを尋ねようとしたが、
「そう言えばシンジ君。ここにいるって事は、レイのお見舞い？ ひょっとして、レイの事が気に入ったのかな〜〜？」
含み笑いをしながらのミサトの台詞にシンジは内心溜息を吐いた。しかし、ムキになって否定すれば余計絡んでくるだけだ、と一計を案じる。
「……ええ。彼女、凄い才能があるみたいですから。百万人に一人とか言う奴ですね」
「へっ！？ ……才能、って何よ？」
『ＥＶＡの操縦の他にも何かあるのかしら』と、ミサトは首を捻る。
「電波ですよ」
「で、電波ぁっ！！？」
思いも寄らなかった答えにミサトは素っ頓狂な声を上げ、真面目な顔で――心の中では舌を出していたが――頷くシンジを見て脂汗を垂らす。
「そ、そうなの……」
昨夜の事もあり腰の退けてしまっているミサトに、シンジは尋ねる。
「……で、何の用でしょうか？」
平静なシンジの声に、ミサトは気を取り直す。
「あーー、シンジ君の家なんだけどね、私の家の隣になったから。それで、一緒に帰ろうかなぁ〜〜って」
それを聞いたシンジは、ミサトが監視員を兼ねている事を察して少々不愉快になった。しかし、取敢えず『こちらが尻尾を出さず、向こうがこちらのプライバシーに踏み込んでこなければいい』、と考え直す。
「分かりました。これからお願いします、葛城さん」
「ミサトで良いって言ったでしょう？ これからお隣さんになるんだから！」
「いえ、残念ですがその気になれませんので」
あくまで隔意を崩そうとないシンジに、ミサトは顔を顰めた。
エレベーターが目的階に到着し、シンジ達が箱を降りようとすると、目の前にゲンドウが立塞がっていた。
ゲンドウが動こうとしない為、シンジは出る事が出来ない。暫く睨み合っていた二人だが、シンジが静かに言った。
「碇司令。そんな所に立っていられたら邪魔です。出られないじゃないですか」
真っ向からゲンドウに文句を付けるシンジに、ミサトが硬直する。ゲンドウは尚も動かなかったが、やがて脇に退いた。
シンジはその前を通り過ぎようとしたが、一度足を止めた。
「こういう場合は“出る人が優先”でしょう。常識も知らないのですか？」
そう言うと一礼して歩いていった。
その後ろをミサトがゲンドウにペコペコ頭を下げながら付いて行く。
病院を出たミサトは大きく息を吐いてから、前を行くシンジに話し掛ける。
「シンジ君……よく司令にあんな事を言えるわね」
「何であの程度の相手に、遠慮しなければならないんです？」
平然と言ってのけるシンジに、ミサトは絶句してしまった。
歩みが遅くなり、シンジに置いていかれかけたミサトは慌てて追い付く。
「あっ、シンジ君。それじゃ、車の所に行きましょうか。こっちよ」
「はい」
頷き、今度はシンジがミサトに付いて行く。
駐車場へと向う途中、ミサトが思い出して振向く。
「あっ、そうだ……シンジ君？」
「はい？」
「えーとね。よければアタシの拳銃、返してくれないかな〜〜って思うんだけど……」
「……」
手を合わせんばかりのミサトに、シンジは無言で昨夜奪った銃をバッグから取り出す。
そして弾倉を引き出し薬室からも初弾を抜くと、そちらはバッグに戻す。
「どうぞ」
差し出された銃を受取りながら、全くこちらを信用していない様子のシンジに、ミサトは顔を引き攣らせた。
コンビニで食料を買い込んだミサトは、真直ぐ家には向わずルノーを走らせていた。
シンジが行き先を尋ねる事も無かった所為か、車内に会話は無かった。
（はあ〜〜……空気が重いわ……。でも、アレを見て少しは感動してくれれば良いんだけど……）
ステアリングを握りながら、ミサトはシンジを横目で見て考えた。
ミサトは峠の展望台に車を止め、シンジを促し外に出た。
二人は柵の所まで足を進め、眼下の朱に染まる街を見下ろした。
シンジは無言でそれを眺め、ミサトは腕時計で時間を確認する。
「……時間だわ」
ミサトの言葉に続いてサイレンが鳴り渡り、それを合図に街の各所からビルが生えてくる。
「ふーーん……」
その光景にシンジは少しだけ声を出す。感動した様子はあまり無かったが。
「これが“使徒”専用迎撃要塞都市――第３新東京市。私達の街よ」
得意気に言うミサトはシンジに顔を向ける。
「そしてあなたが守った街」
笑い掛けたミサトだったが、シンジは肩を竦める。
「別に守るつもりで戦ったわけじゃありません。そもそも、“戦わされた”だけですし」
ミサトは蹌踉く。
「それにしてもケッタイな仕掛けですね。……タイトルを付ければ『臆病者共の都』、と言ったところでしょうか？」
（……こ、このクソ餓鬼ゃあ……）
柵に手をついて何とか体を支え、文句を言おうとしたミサトだったが、
「しかし、戦場となる所に街を造って、一般人を住まわせるなんて……一体何を考えてるんです？」
シンジの至極真っ当な疑問に動けなくなった。
（まあ、『将来の首都』なんて名目は、予算を得る為の方便なんだろうけど……）
固まったミサトを無視してビル群を見詰めるシンジは、それがＮＥＲＶの欺瞞であろう事を察していた。
日も暮れてから、二人はミサトの自宅があり、シンジの新しい住居となるマンション――コンフォート１７――に到着した。
「はい、これがシンジ君ちの鍵よん」
カードキーを手渡そうとするミサトだが、二人分の荷物も持っているシンジは両手が塞がっていて受取る事が出来ない。
「……それより先に、葛城さんの荷物を置かせて下さい」
「あ、ごみんごみん……こっちよ」
言ってミサトは移動し、隣の扉を開ける。
玄関に荷物を置いたシンジはキーを受取り、自分の部屋に向おうとする。
「それでは葛城さん、お休みなさい」
「あーーっと、シンジ君？ ちょっち待ってくんない？」
ミサトがシンジを呼び止める。
「……何でしょう？」
「ま〜だ夜はこれからだしさぁ、シンジ君の歓迎会にウチで騒がない？」
「結構です」
何とかシンジと打ち解ける口実を作ろうとして誘ったミサトだが、素気無く断られて遂にキレた。
「ちょっとアンタ、いい加減にしなさいよ！ アタシが何をしたって言うの！？ 何が気に入らないのよ！？ どうすれば良かったって言うのよ！？」
吠えるミサトに、シンジは醒めきった声で答える。
「――何って、誉められる事をしたと思っているんですか？ 僕は道具扱いされて喜ぶ趣味は無いんですけど」
「そっ、それは……」
言われたミサトは殴られたような顔になり絶句する。
「それに……ちゃんと事情を説明して、『頼む』と言ってくれれば――それで良かったんです」
最後の台詞には欠片も皮肉は含まれていなかった。シンジはそれ以上言う事無く一礼して自分の部屋に行き、その場には凍り付いたミサトが残された。
自宅に入ったシンジは溜息を吐いて玄関の扉に背中を預けた。
「葛城ミサトさんか……。悪い人じゃない――とは思うんだけどな……」
ゲンドウと違って彼女が悪意を持ってない事は分かる。だが悪意が無いからといって、人を傷付けないとは限らない。
問題はそれを本人が自覚しているかどうかである。自覚していないならそれに気付けば良いし、自覚していてアレならば――
シンジは自然と溜息が出る。
「なんか……この街に来てから、溜息ばっかりだな……」
呟いたシンジにファウストが語り掛ける。
《気付いてますか、シンジ》
「うん……こっちは――悪意によるものかな？」
玄関に入った瞬間、電子の眼と耳の存在を察知していた。
取敢えず部屋に上がる。
リビングには届けられた荷物が置いてあり、また各部屋に一通りの家具や生活必需品が備えられているのを確認する。
窓を開けベランダに出て下を覗くと、道路に怪しげな車が停まっているのが見えた。
「……早速、契約違反だね」
中に入って電話機の所に行く。ありがたい事に留守電付だった。
番号をプッシュして受話器を耳に当てると、程無く相手が出た。
「……夜分遅くすいません、冬月さん。碇シンジですが」
『シンジ君？ どうしたのかね？』
「用意して頂いた住居に着いたんですが、部屋中監視カメラと盗聴器だらけなんですけど、これはどういう事なんでしょうか？ 『私生活に干渉しない』という契約だった筈ですが」
『……何かの勘違いではないかね？』
受話器の向うで顔を顰めながら冬月は言う。
「では取り外して、明日証拠としてお持ちします。その上でここを出て、別の住居に移らせてもらいますがよろしいですね？」
『……ＮＥＲＶが仕掛けた物とは限らんと思うが……』
なおも惚けようとする冬月に、シンジは目を細める。
「ほぉ〜う。するとＮＥＲＶは、膝元の街で他の組織に良いようにやられる無能の集まり、と言う事ですか？」
辛辣な言葉に冬月は降参する。
『分かった。明日午前の内に取り外させよう……』
「結構です。僕も立ち合わせて頂きますので。それと、違約金の事をお忘れなく」
『……ああ』
盛大な溜息がシンジの方まで聞こえてくる。
「それと、ストーカーも止めてもらえますか？」
『ストーカー？ ああ、いや……それはシンジ君を守る為なんだ。我慢してもらえないかね』
何とか護衛（という名目の監視）だけは残そうとする冬月だが、シンジはそれを許すつもりは無かった。
「守る――ですか……。では、試してみましょうか」
『試す？ どういう事かね？』
「僕を守るだけの腕があるか、という事です」
『ま、まさかシンジ君……』
「……中学生にやられる程度の護衛なんか、意味が無いでしょう？」
『う、うむ』
「御理解頂けたようで幸いです。それでは」
つい肯定してしまった冬月が更に何かを言うより早く畳みかけ、電話を切ってしまう。
（……さて、狩りの時間といきますか）
先程の会話が記録されている事を確認してから、シンジは面白くもなさそうに玄関に向った。
その夜。シンジ監視チームからの定時連絡が途絶え、コンフォート１７周辺の監視システムが尽く潰された。ＮＥＲＶ保安諜報部は直ちに増援を送ったが、彼等も連絡を絶った。
結局、翌朝全員が発見されたが、怪我は無かったものの財布・武器・通信機器等を奪われていた。
彼等は襲撃者を目撃しておらず証拠は無かったが、報告を受けた冬月はそれがシンジによるものと確信。シンジに連絡し苦言を呈した。
シンジはそれを肯定する事は無かったが、これからもそのような事が起こり得る事を仄めかし、抗議しようとする冬月を昨夜の電話の記録を使って黙らせた。
以後、その記録は保安諜報部――そして特殊監査部――において『サードチルドレンの斬捨て御免状』と呼ばれる事になった。また、シンジによる襲撃を『サードチルドレンの黒服狩り』と呼んで恐れるようになる。
更に後日、それを知ったシンジは、ＮＥＲＶ内で“サードチルドレン”の呼称がなおも使用されている事を知り、冬月に違約金の支払いを求める事となる。
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