『本日１２時３０分、東海地方を中心とした関東地方全域に特別非常事態宣言が発令されました。住民の方々は速やかに指定のシェルターに避難して下さい』
なにやら物騒な放送が流れる中、一人の少年が何処にか電話を掛けている。
が、それが繋がる事は無かったのか、彼は無言のまま受話器を戻す。
繊細そうな容貌ではあるが、その顔は厳しく引き締められていた。
その顔を不意にある方向に向ける。
視線の先に現れたのは巨大な人型の物体。そしてそれに襲い掛かる戦闘機の群れ。
「…………」
少年は素早く状況を判断すると、その場から離れるように駆け出した。
『やりすぎの福音戦士』
或いは、とある軍曹に育てられた少年の戦いの記録
「碇シンジ君よね？ 大丈夫だった？」
「はっ、自分は大丈夫であります」
「じ、自分……？」
葛城ミサトは助手席の少年――碇シンジに困惑していた。
彼が“野戦服”を着ていたのは……まあ良い。報告書には無かったが、ミリタリーマニアという事で納得出来る。
だが、その胸の所にゴツイ“コンバットナイフ”が差してあったり、腰に人の首を刈るのに丁度良さげな“グルカナイフ”が下げてあったり――そのくらいならまあいいのだが――左腋の下に“不自然な膨らみ”があったり、持っていたバッグがやたら重そうで動かすと何やらガチャガチャと金属がぶつかり合う音がするのはどんなものだろうか。
おまけに、自分が“一尉”である事を漏らすと態度がやたらと丁重になり、「ミサトでいい」と何度言っても「大尉殿」と呼ぶのをやめなかった。
車中での――そしてＮＥＲＶ本部に入ってからのシンジとの会話は、ミサトの困惑を更に深めていった。
途中でリツコと合流し、ケイジに向う。
どうやらリツコにもシンジの様子は予想外だったようで、時折首を傾げながら後のシンジを何度と無く振り返る。
目的地に辿り着き、そこの暗闇を追払う。明らかになる紫の鬼。
「これは人の造り出した究極の汎用人型決戦兵器。人造人間ＥＶＡＮＧＥＬＩＯＮ。その初号機。建造は極秘裏に行われた。我々人類の最後の切り札よ」
「……これが父の仕事でありますか？」
リツコの説明にシンジが呟く。
「そうだ」
不意に掛けられる声。
そちらを振り仰ぐと、ＮＥＲＶ総司令、碇ゲンドウが三人を見下ろしていた。
「久しぶりだな、シンジ」
「はっ！」
背筋を伸ばし敬礼するシンジ。
「ふ……出撃」
ニヤリと笑っていきなり無茶な命令を下すゲンドウ。それに驚き抗議しようと口を開きかけたミサトだったが、
「はっ、ご命令とあれば！」
シンジの返事に遮られ、慌ててそちらに顔を向ける。
ミサト、そしてリツコの驚きと戸惑いを気にせず、ゲンドウはシンジに語り続ける。
「……シンジ。今この時をもって、貴様はウジ虫を卒業する。貴様はＥＶＡＮＧＥＬＩＯＮパイロット、サードチルドレンとなるのだ」
「サー、イエッサーッ！！」
「さて、貴様はこれから最大の試練と戦う。勿論逃げ場は無い。全てを得るか、地獄に落ちるかの瀬戸際だ。どうだ、楽しいか？」
「サー、イエッサーッ！！」
「ふっ、いい声だ。では……」
ゲンドウは口を歪めると、サングラスを指で押し上げる。
「シンジ！ 貴様の特技は何だっ！？」
「殺せっ！！ 殺せっ！！ 殺せっ！！」
「この戦いの目的は何だっ！？」
「殺せっ！！ 殺せっ！！ 殺せっ！！」
「貴様は世界を愛しているか！？ ＮＥＲＶを愛しているか！？ クソ野郎っ！！」
「ガンホー！！ ガンホー！！ ガンホー！！」
「よしっ！！ 行けっ！！」
そこまで言うとゲンドウは呆然としている女性二人の方を見ると、いつもの口調に戻ってリツコに告げる。
「では、赤木博士……シンジに説明を」
そう言われても、リツコは固まったまま暫く動く事が出来なかった。――そしてミサトも。
「まさか、暴走！？」
「いえ、初号機は完全にシンジ君のコントロール下にあるわ！！」
発令所のスクリーンの中では、目を覆いたくなるような残虐で凄惨極まりない戦闘が行われていた。
ほとんど一方的に使徒を嬲り、その身体を叩き潰し引き裂く初号機。
あまりの光景に、発令所の人間の大半は血の気を無くし、中には口元を押さえるものも出てくる。
「どういう事だ、碇っ！？ こんな事は俺のシナリオに無いぞっ！！」
司令塔最上部では、やはり蒼くなった冬月が掠れた声でゲンドウに食って掛かる。
「ふっ……問題ない。シナリオ通りだ」
ゲンドウポーズで不敵に笑ったゲンドウは、またサングラスを押し上げて呟く。
「よくやったな、シンジ」
その視線の先で、最早ピクリとも動かぬ使徒に向って罵声を浴びせる初号機の姿があった。
『終わりか、このクソッタレが！？ さあ立て、もう一度勝負してやる！ ガッツを見せてみろ、●●●●野郎！ 貴様は●●臭い●●●にも劣った●●だっ！ 悔しいかっ！？ 悔しかったら俺の●●●を――』
「……フ、フケツ」
それを聞いた潔癖症の某オペレーターは、口を押さえながらもそう呟いた。
……某所にて。
「……ねえ、ソースケ。シンジ君大丈夫かなぁ……？」
「問題ない。あいつは俺が鍛えた男だ。必ずや、やってくれるだろう」
「それが問題なのよ……。あ〜ぁ、昔は素直で良い子だったんだけどなぁ〜〜……」
おしまい
「転校生！ わしはお前を殴らないかん。殴っとかな気が済まへんのやっ！」
「ならば、ガッツを見せろっ！ ●●持ちの●●野郎っ！」
「おおっ、デザートイーグルっ！ 凄いっ！ 凄すぎるっ！ 男なら涙を流すべき状況だねっ！ これはっ！」
「フッ、フケツよーーーーっ！！」
シンジの転校により、校内に吹き荒れるバイオレンスの嵐！
次回「決戦、第一中学校」
…………続きませんっ！！ （笑）
戻る